【日本語教師】新人は『みんなの日本語』!スキルアップは『できる日本語』で!

現役日本語教師の方

日本語学校の初級クラスで使う総合教科書といえば、

「みんなの日本語」が圧倒的なシェアを誇っています。

今、それを猛追しようとしているのが、「できる日本語」ではないでしょうか。

語学関係の本では有名な大手出版社が、威信をかけて大々的に広報活動をしているイメージがあります。

私の勤務校にも立派な紙質…本当の教科書より良い紙質…のサンプルが送られてきていました。

一課分の抜粋のほか、教科書の流れ、授業の進め方を詳説した冊子がついています。

これを全国の日本語学校や専門学校に送っているのか?…

と思うと、やはり大手の力を感じずにはいられません。

※以下、「みんなの日本語」は「みん日」、「できる日本語」は「でき日」と略させていただきますのでご了承ください!

この二つの教科書を比べてよく言われるのは、

みん日 : 文型積み上げ型
でき日 : タスク先行型

ということではないでしょうか。

確かに「みん日」は易しい文型から少しずつ難易度の高い文型へと順に並んでいて、

それぞれの意味・型を理解し、口慣らしをして、たくさん練習してひたすら覚え…

コツコツ積み上げていく方法で日本語を学ぶ教科書です。

ベクトルとしては

【教師→学習者】で、

語弊があるかもしれませんが基本的に

「上から下へ教授する」という使い方がしやすく、しっくりする…

そんな教科書だと思います。

『みんなの日本語初級Ⅰ本冊』  (←アマゾンへ飛びます)

翻って「でき日」では、まず、学習者に話すことを求めます

そして学習者にはタスクが与えられます。

最初は状況の分かるイラストを見て、そこで言うべきことを言う、という小さなタスク。

学習者はそのタスクを達成するために

その時点での自分の日本語能力を駆使して

なんとか相手に言いたい内容を伝える努力をします。

そうして「言いたい」という気持ちを高め、

でもうまく言えない!もどかしい!」という状況に置いてから、

適切な表現を紹介する、という形で授業を進めます。

ベクトルのイメージとしては

【学習者←→教師】で、

一方的ではない使い方ができるような工夫がなされています。

また、最後にその課で学んだことを元にしつつ、実際に行動して達成させるタスクも用意されています。

そしてそのような使い方をYouTubeでも教えてくれています。

『できる日本語初級』授業の進め方② (youtube.com)ではデモ授業が見られます。デモ授業はこの一本ではなく、授業の流れ全体が分かるように何本も用意されています。大盤振る舞いですね!とても勉強になります。)

『できる日本語初級本冊』  (←アマゾンへ飛びます)

つまり「みん日」と「でき日」は、かなり違う教科書、のように見えます。

ところで全国の日本語学校には、

養成講座で使用方法を学んだ「みん日」愛にあふれた先生がたくさんいます。

新人日本語教師
新人日本語教師

みん日」が大好きです!

中堅になりかけ日本語教師
中堅になりかけ日本語教師

でき日」の良さも聞いています。でも、違う日本語学校に移るとしてもやっぱり「みん日」を使う学校に行きたいです。

なぜでしょう?

新しい教科書に踏み込む勇気がない?
新しい教科書の研究や授業の組み立てを考えるのが面倒??
おなじみのマイク・ミラーさんと別れがたい???

・・・

私自身の考えとしては、

養成講座を修了して最初に勤める勤務校は「みん日」使用の学校がいい。

と思っています。

なぜなら、まだ経験のない、あるいは浅い先生は、

とりあえず養成講座で教え方を習ってきた、なじみのある「みん日」を使用しながら

実際の授業経験を積むべきだと思うからです。

経験もないのに、いきなり初めて使う教科書にチャレンジするのは

ハードルが高いのではないかと思うからです。

それはつまり、

教えられる学生にとってもハードだろう

と思うからです。

・・・でも。

国家資格を取ってこれからも長く日本語学校で勤務していきたいという方には、

どこかのタイミングで一度、ぜひとも「でき日」にチャレンジすることを強くおススメします。

断言しますが、

「でき日」を使うと、確実に教師としてのスキルが一段上がります

自分が使ってみて、あるいは初めて使った人を見ていて、そう確信しました。

まず、「でき日」を使うと教室で教師と学生が目を合わせる機会が増えます

言葉を、(言語学の対象などではなく)コミュニケーションツールとしてとらえる場合、

相互作用(インタラクション)は欠かせないものです。

タスク先行型テキストと言われる「でき日」は、

一貫してこのコミュニケーションを重視しています。

学習者の発話も、一言で教師の問いかけに答えるような形ではなく、

『かたまりで話す』ということが大切にされます。

教師は、シーンとした教室では積極的に話すよう促し、

逆ににぎやかになり過ぎてワチャワチャしたり、予定時間をオーバーしそうになったら

それをうまく修正しなければなりません。

そういうコントロールがより必要になるのが「でき日」の授業だと思います。

・・・ある意味、「みん日」の授業は教師主導になりますから進めやすいんですよね。

そこから一歩脱して、学習者主体(だと学生が感じるような…)授業を作る必要が、

「でき日」にはあるのです。

「でき日」を使うことで、自然と教師の話し方のスキルや、タイムマネジメントのスキルも上がるはずです

上記のように教室をコントロールしながら進めるので、当然です。

特に話し方。

「でき日」では、教師は学習者に話をさせる・・・声を出させることが必須です。

教室には黙々と下を見て教科書の字を追う学習者というのが一定数いるものですが、

その人たちの顔を上げさせなければなりません

それは、教師の腕です。話し方です。

また、「でき日」はタスク先行型で、

課の中に活動をさせる時間も入っていたり、

とにかく【学生自身が積極的にactionを起こす】ことを促しますが、

かと言って

「タスクができれば文型や語彙などの正確性なんてどうでもいい」などということでは勿論ないので、

ちゃんと文法説明なども教師は行います

(日本語学校学習者のほとんどはサバイバル日本語を身に付けたいのではなく、JLPT等を受けるわけですから当たり前ですね)

が、、、それなら得意だ!という先生でも、

もし「みん日」で落ち着いた、低いテンションで文法説明をやってきた先生には・・・

少々難しいかもしれません。

なにしろ「でき日」は学習者に話をさせますから、

学習者のテンションも上がりやすいのです。

文法の説明などもそのテンションに合わせた話し方でないと、

その後がなんだか不自然な感じになりがちです(私の個人的な感想ですが)。

ということで、教師は

『一貫して明るめ・高めのテンションで、学習者の様子をよく見ながら話す

時間をしっかり管理して必要な活動をさせつつ、説明も時間内に終わらせる

というスキルがアップします。

私は決して「みん日」を批判しているわけではありません

どころか、本当に素晴らしい教科書であると思っています。

この教科書シリーズを日本語教師になりたての頃に使ったおかげで

初級文型を初級学習者に伝える方法をきちんと身に付けられたと思うので、

私自身も成長できたと思っています。

私が初めてこのシリーズで使ったテキストは、

新日本語の基礎」でした。

『新日本語の基礎Ⅰ』本冊 漢字かなまじり版 (←アマゾンへ飛びます)

それは「みん日」の前身?姉妹版??だと思いますが、

そのころから本当に「なんて良い教科書なんだ!」と思っていました。

(現在のようにたくさんの留学生が日本に来ていなかった時代に作られた本です。工業大国であった日本の工場などで仕事をする人に向けた語彙が入っていたのがおもしろかったです。たとえば「安全靴」とか・・・(笑!)印象に残っています! 今の『みんなの日本語』は、これをもっと普通の、一般的な日常生活を送る人向けに語彙や場面を直したものだと思います。出てくる文型や教え方の流れなど、基本は同じです)

参考までに、こちらはご存じミドリ安全の安全靴です!(←アマゾンのサイトより)
滑りにくく、重い物が足の上に落ちてきても足を守ってくれる、安全な靴!
私は以前、足に重い物を落として足の指に大けがを負った人を目の前で目撃したので、自分の日常生活用にも一足ほしいと思いました!
普段はいていてもおかしくないデザイン。素晴らしいですね!
こんな靴の名詞が新出語に入っている日本語テキスト、ある意味クールだなと思いませんか?(笑)

他の初級者向けテキストを使っていた学校にも勤めていましたが、

中には本当に「え?なんじゃこりゃ!」と思うようなテキストもあって・・・

(当時としても古かったのかもしれません。今は本屋さんでも見かけなくなりました。あるかもしれませんが、ほとんど使われていないと思います)。

ですから『新日本語の基礎』(≒『みん日』)のすばらしさはよく分かりました。

辞書を見ながら、文字で確認しながら、コツコツ積み上げる勉強が好きな学生にも好評でした。

また、このシリーズには練習帳や問題集をはじめとする副教材も豊富で、とても便利です。

ただ、今の時代の大きな流れ(タスク先行の傾向)とはちょっと違うんですよね…。

でも。

実は実は、「みん日」も「でき日」も、使い方次第ですごく似た授業にできるとも思っています。

「みん日」だって、教師が工夫すればタスク型の授業にできると思うし、

たくさん活動を組み込むことだって自由にできます。

ただ、「みん日」でそれをやろうと思うと、

教師の手間(授業の準備には相当時間がかかると思います)が増えてしまうのが現実。

だったら最初から「でき日」を使った方が(タスク型の授業をやるなら)便利だよね、

ということだと思います。

(・・・「でき日」も実は「みん日」とほぼ同じように文型が提出されていきますから、そこでがっつり説明はすることになるので、先生のやり方によっては【教師→学生】型の授業になるかもしれません。)

以上、二冊の初級テキスト「みん日」と「でき日」の違いをまとめてきました。

結論としては、

「でき日」も「みん日」もいい教科書!
授業で使うときは、「みん日」を「でき日」的な使い方にもできるし、「でき日」が「みん日」的な使い方になることもある。・・・それは結局「教師次第」!
そして、どちらも経験すべき
おススメは、「みん日」で教師デビュー、その後「でき日」でレベルアップ!の順番です。

「でき日」も「みん日」もできれば、初級の先生としては鬼に金棒だと思いますよ。

(もちろん他にも初級テキストは各種ありますが、それらについてはまたいつかまとめたいと思います)

少し古いものですが、日本村サイトに「できる日本語」と「みんなの日本語」についてどちらがいいと思うか、というアンケート結果があります。何人かの日本語教師の生の声があります。

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