ちょっと前の話になってしまいますが、10月26日、「大阪府専修学校各種学校連合会」という団体の主催で、
『今こそ考える留学生支援‐ポストコロナにおける新しい潮流の変化‐~教職員が知っておきたい「通じる日本語」とは~』
という、非常に長いタイトルのセミナーが行われました。
主として専門学校教職員向けのセミナーでしたが、オンラインで視聴しました。
興味深い内容でしたので、レポートしたいと思います。
『通じる日本語』
昨今、「やさしい日本語」の重要性がいたるところで言われるようになりました。
自然災害の多い日本で、いざというとき、日本語が流暢でない外国人にも分かりやすい言葉が必要だということで生まれた考え方です。
実際、現在は自治体などから外国人の住民向けに出されるお知らせやパンフレット、外国人向けのNHKニュース等でも「やさしい日本語」が使われています。
たとえば・・・
一般的な日本語 台風が接近中です。その影響で今後断水のおそれがあります。
やさしい日本語 つよい風がふきます。つよい雨がふります。これから、水が出なくなるかもしれません。
下の「やさしい日本語」は、日本語初級レベルの人にも伝わりやすい文になっていると思います。
漢語(台風・接近中・影響・今後・断水)を避け、できるだけ簡単な、日常的な会話で使われやすい言葉に置き換えています。【もちろん、中国の方には、漢語があるほうが分かりやすいのでしょうけれど…】
また、「接近中」や「おそれがあります」という言葉の正確な意味も、あえて省いています。最も大切なことを確実に相手に伝えるためには、なくても良い細かい情報を極力省くことも大切だからです。
「やさしい日本語」に明確な定義はありませんが、一般的には上記のような配慮がなされています。(他にも一文を短くするとか、書き言葉の場合は漢字にルビをふるとか、分かち書きするか、いろいろな工夫があると思います)。
※「やさしい日本語」について、詳しくはこちらの記事をどうぞ!
しかしながら!
いくら外国人向けの日本語と言っても、中級以上の日本語の使い手には、これではちょっと簡単すぎますよね?
中級以上の日本語の使い手、それは例えば、日本語学校を卒業して専門学校や大学に入った学生達。もう日本国内で2年以上日本語を勉強している人達です。
そこで、今回のセミナー主催者の方々が、そういう人達向けの日本語を「通じる日本語」と名付けられたそうです。(細かいルールまでは定義されていないようでした)
私のイメージで上記の例文を「通じる日本語」に直してみると・・・
通じる日本語 もうすぐ台風が来ます。そのため、これから水道の水が使えなくなる心配があります。
こんな感じでしょうか・・・。(あくまで私のイメージです)
「やさしい日本語」「通じる日本語」では、これに
「だから水をペットボトルに入れて準備しておきましょう」
等の注意を加えてもいいかもしれません。
日本人なら省略されたこの部分まで読み取ると思いますが、すべての外国人の方がそれを思いつくとは限りませんから、ここまで書く方が親切かなと思います。
通じやすい日本語のポイント
このセミナーで発表された講師の中に大阪文化国際学校(日本語学校)の先生がいらっしゃいました。
この方は、
- 短文で
- 簡潔に
- 話すときはゆっくりはっきり
- 文末は、「~です、~ます、~ではありません、~ません、~か」まで明確に
- 方言は使わない
などを「通じる日本語」の注意点としてあげていました。
その結果、多少、日本人の使う一般的な日本語とくらべると不自然な表現になっていたとしても、通じることを重視するのでOK、ともおっしゃっていました。
また、ある建築系の専門学校(修成建設専門学校)の先生は、ご自身の留学体験を振り返りながらお話されていました。ご自身が留学したての頃は、教員は自分の話をほとんど訂正することなく聞いてくれた、だが時間を経てある程度語学力がついた頃から、表現や語彙をどんどん訂正されるようになったのだそうです。
やはり、いつまでも「やさしい日本語」にとどまっていてはダメなのです。
非常に共感できるお話でした。
つまり基本的には「やさしい日本語」と同じベースを守りつつ、語彙や使用文型を中級レベルまで広げた(=母語話者の会話により近づいた)ものが、「通じる日本語」になるのではないかと思います。
日本語教師のウデの見せどころ
学習者の使用語彙や文型、その誤用に関して、どこまで許容し、どこまで厳しくするのか?
教員側はどの程度の語彙コントロールをして話していくのか?
それを学習者の現在のレベルや、時には目標とする到達点まで考慮して、見極めていく。
それが、日本語教師のウデの見せどころの一つではないかと思います。
普段留学生と会話するとき、まるで子どもに話すかのような幼稚な語彙、表現で話しがちな日本語の先生もいます。(実際にいるんです!留学生は子どもじゃないのに!)
それで用件は分かるでしょうし会話も楽しく進むかもしれませんが、それではいつまでたっても学習者の日本語レベルはupしません。
ず~っと「やさしい日本語」のままです。
真逆に、どんどん速いスピードで難解な言葉をポンポン使いながら話す、学生の理解度をまるで無視する先生もいます。(実際にいるんです!留学生はポカンとして静かになります。諦めているだけなのに、それを先生の方は「真面目に聞いている」と勘違いしています!)
やっぱり学生が話せるのはず~っと「やさしい日本語」のままです。
そうではなく、「やさしい日本語」から「通じる日本語」へと進化させ、さらに段階を踏んで、細かいニュアンスの違いまでしっかり「伝えあえる日本語」(勝手な造語です)まで引き上げていくために、私たち日本語教師も腕をみがかないといけないな~と、強く思いました。
ちなみに、このセミナーを通して「専門学校」の未来についてもいろいろと考えさせられました。 それについてはまた後日、違う記事にまとめたいと思います! |
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