2024年8月末から9月にかけて、日本列島を史上最強クラスの台風10号が襲いました。
私が住んでいる地域も、大雨で一時期大変でした。
さて、私は日本で生まれ育っているので地震や台風の怖さはよく知っているつもりです。
ですが、留学生などの在留外国人の方はどうでしょう?
今回の台風で考えたことをまとめてみましたので、ぜひ最後までお付き合いください。
自然災害の怖さを実感していない在留外国人?
・・・実は今回、大雨のさなか、某学習者(在留外国人の方です。台風やハリケーンのない国の出身者です)から私にSNSで短い動画が送られてきました。
その一コマが、こちら。⇩
状況、伝わるでしょうか?
雨で増水し、もうすぐ橋に届きそうな高さまで水が迫っている、まさにその橋の上から、ものすごい勢いで流れる川を撮影したビデオでした(手前に写っている白い横棒は欄干です)。
ビデオではゴウゴウと流れるすさまじい音も入っていました。
ゾッとしました。なぜそんな危険なことをしているのか⁉と。
すぐに「危険だから離れて!」というメッセージを返信しました。
もちろん、この学習者もずっとそこに留まってはいないでしょう。
でも、水害の怖さを本当に実感として知っているならば、こんな危険極まりない所でしばし立ち止まってビデオを撮ったりしないと思うのです。
それで思ったんです。
日本の自然災害って、外国人、特に若い人にとっては意外と「他人事」なのかなと。
知識として頭にあっても、まさか日本で自分の命が実際に危険にさらされるなんて思っていないのではないかと。
(この台風で9/1現在、既に6名が死亡1名が行方不明だそうですが…)
日本という国を選んで来てくれた学習者達の安全を守るためにも、日本語教師は災害教育にも本気で取り組まないとダメだな、と感じたのです。
今年1月、能登半島の地震の際アップした記事(こちらです)もぜひご覧ください。
この中で、NHKアナウンサーの災害時アナウンスに関する記事も紹介しています。非常に読み応えのある記事ですので、こちらも是非!
防災教育として、9つ(+1)の提案
日本は言わずと知れた災害大国です。毎年のように各地に大きな被害がもたらされています。
その危険性を彼らに実感してもらい、それに備えてもらうためにはどうすればいいのでしょう。
①YouTube映像を見せる
とにかくまずは来日して早い段階で「映像を見せる」ことかな、と思います。
過去の災害映像や被災者の証言をまとめたYouTubeを活用し、その恐ろしさを視覚的・聴覚的に訴えかけると効果的だと思います。(できるだけ住んでいる地域に近い所がいいと思います)
台風や地震、大雨で大変なことになっている映像はたくさんあります。
また、川が氾濫して周囲がまるで泥沼のようになってしまった中にポツンと残された家の二階から、取り残された人がヘリコプターに救助されるような映像も。
そうした映像は、教師が「危険だ」と繰り返す言葉より、ずっと強烈な「危険」のメッセージを伝えることができると思います。
②日本に多い自然災害の種類を教える
日本で発生しやすいのは、地震、津波、台風、豪雨と水害、土砂災害、火山の噴火などだと思います。
それぞれの特徴を具体的に解説することも大事でしょう。
特に海や川の近くに住んでいる人、家の近くに山や崖がある人、地盤の緩い地域に住んでいる人には、その地理的特徴と合わせて説明すると、より深く理解してくれると思います。
地域のハザードマップが役立ちます。自分の住んでいる地盤が赤い色で塗られたりしていないかを確認させます。
③緊急時の即時対応(すべきこと、してはいけないこと)
災害発生直後に何をすべきか、そして何をすべきでないか、具体的に教えることが必要だと思います。
地震や津波、台風のない国から来る人に伝えておくべきことはたくさんあります。
「落ちてくる物から頭を守る」「海から離れる」「ガスの元栓を閉める」「エレベーターを使わない」「台風の時はむやみに外に出ない」「川に近づかない」等々…。
④事前の準備(普段の防災意識を高める)
事前の備えがあれば安心です。日本人なら非常用持ち出し袋が1セットは用意してある家庭が多いのではないでしょうか。学習者にも準備しておくことを勧め、中身についてもアドバイスしておくといいと思います。
また、自宅の家具の固定や、物の位置(寝ている間の地震で物が体の上に落ちてこないようにする)の配慮も必要です。全然考えていない可能性もあります。
…日本語教師としては、ここで「備えあれば憂いなし」ということわざも紹介したいところです…
⑤災害時に役立つアプリと正しい情報源(観光庁・NHK)
災害時に役立つスマホのアプリを紹介し、使い方も実際に操作しながら教えるといいと思います。
例えば、
などです。どちらもQRコードがあるのでダウンロードできます。
なお大きな災害の後は、デマや誤情報が出回ります。今回もSNSで過去の大きな被害の映像を、まるで現在の映像のように流している人がいてニュースになっていました(怒!)。そんな中で上記の二つは信頼できます。
⑥災害時の日本語
これは日本語教師としては得意分野ですが、緊急時に使用される日本語表現はぜひ教えておきたいところです。
「逃げろ」「助けて」「避難してください」「何が起きたんですか」「消防を呼んでください」「大使館の連絡先を教えてください」とか…。他にも、避難所で使われるかもしれない言葉、特に緊急時のメッセージなどの表現は早い段階で教えておきたいですね。
⑦避難所と、そこでのマナー
地域の避難所は決まっています。それぞれの居住地近くの避難所は確認させておいた方がいいでしょう。
また、避難所では、集まっている人々は不安でイライラしています。そんな中で日本人と外国人の文化の違いから摩擦や衝突が起きることがあるようです。こうしたことはあまりテレビで放送されませんから、私は知りませんでした。
そうならないよう、日本人のそうした場所でのマナー(食事、人との話し方(距離感)やプライバシーの守り方、習慣…)は、伝えておくべきだと思います。
※避難所で日本人と外国人が衝突することは、よくあることのようです。
こちらの本「地域防災の実践」(鈴木猛康)に紹介されていました。(←アマゾンに飛びます)
また、外国人と避難所については、こちらのNHKの記事も目を通しておくことをお勧めします。
⑧実践的な授業(非常食・防災グッズ)
学校では「避難訓練」をしているでしょうか? そのとき、ただ外に逃げる経路の確認だけでなく、「非常食」を試食したり、防災グッズの使い方の確認をしたりしておくのも有効だと思います。
日本語学校や大学、専門学校等には「非常食」が常備してあると思います。
私は以前勤務校で、期限切れになる直前に学生達と試食したことがあります。学生の中には、一口食べて「もういい、食べられない」と顔をしかめる人もいました。もちろん空腹に耐えられなくなったら食べるのでしょうけれど、、
日本では災害時、炊き出しでおにぎりや豚汁等が配られたりしますが、様々な理由(アレルギー、宗教的な事情…)でそれが食べられない人もいます。一度非常食を試し、「その時」をイメージさせておいた方がいいと思います。
また、防災グッズの使い方の確認なども実践的に学んでおけば、いざという時に安心です。
体験学習は記憶に残りやすいですし、実際の災害時にとても役立ちます。
⑨できれば防災体験施設へ行ってみる
学校の校外学習や遠足などの日があるなら、できれば一度防災体験施設へ足を運ぶことをお勧めします。
私も以前勤務校でそうした施設へ出向き、地震や豪雨の体験をしたことがあります。
地震の体験をした学生達は、経験したことのない大きな揺れに驚いていました。
こちらは都内の案内ですが、全国各地にあると思います。
⑩避難所ボランティア(日本語教師としての貢献)
これは直接関わる学習者に対してではないのですが・・・
被災地では様々なボランティアが活躍します。日本語教師としてできる最大の貢献は、もしかしたら避難所じゃないかと思います。
地域に住んでいる外国人の方が日本人と衝突してしまう事例は、上述のようにたくさんあるようです。それは、みんなが精神的余裕のない中で、文化による習慣の違いや言葉が通じない事などが、平常時よりずっとストレスに感じられるからだと思います。
そんな時、日常的に「異文化コミュニケーション」を実践している日本語教師が間に入ることで、無用な摩擦が生じないようにできるのではないでしょうか?
ふだん私達が使い慣れている「やさしい日本語」も、とても大きな武器になると思います。
やさしい日本語については、こちらの記事にまとめてありますので、ぜひお読みください。
さいごに
今回の台風10号では、各地で甚大な被害が出ていることをニュースで知り、胸が痛みます。
心よりお見舞い申し上げます。
そして、母国を離れて日本で一生懸命勉強や仕事をしている方々(や、外国人旅行者の方)が安全に過ごせるようなお手伝いを、これからももっともっとしていきたいと思います。
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