現役日本語教師の方、「語彙」の授業は好きですか?
どのように進めていますか??
この記事では、初級クラスの語彙の授業で、一日本語教師(私)が行っている方法や工夫、注意している点等をまとめてみました。(中級以上のクラスについては別記事にまとめています)
なお、この記事で想定しているのは、主に「みんなの日本語」のような文型積み上げ式タイプのメインテキストに出てくる新出語彙の扱い方です。
先生によって方法が違うと思いますが、私は、課の最初にしっかり時間をとって語彙を教えることにしています。その方が、その後の文型の授業がスムーズに進むからです。
初級クラスの語彙の授業で最も大切なポイントはズバリ、
学習者を迷わせない!!
これに尽きると思います。
(※なお、メインテキストの新出語彙ではない語彙については、こちらの記事でそれを定着させる方法をまとめています。)
レアリア、写真、絵
初級学習者が覚えるべき新出語彙は、「具体的な物・こと」が多いです。
ですから、レアリア(生教材)や、そのものが写っている写真、分かりやすい絵を示せば、すぐに理解してくれます。
学生が迷わずに理解できる簡単な名詞であれば、教師がホワイトボードに絵を描くと学生が和んでくれることが多いです・・・学生が「ん?あれは何だ!?」と迷ってしまうような絵なら・・・描かないほうがいいです(笑)
新出語彙には名詞や動詞以外の品詞もありますが、それも初級レベルでは分かりやすいものばかりで複雑な言葉はありません。
絵などを使いながら適切な場面を示すことができれば、簡単に理解してくれます。
また、形容詞の場合は対になっている言葉があれば一緒に教えてしまいます。
大きい ←→ 小さい 寒い ←→ 暑い など。
こうした対になった言葉を教えるには絵カードも使いやすいです。わたしは小学生に日本語を教えていたときに、くもんの絵カード「反対ことばカード」(←Amazon)を愛用していましたが、日本語学校でも使いました。裏表で反対語が書いてあるので使いやすいのです。
なおこのカードには対になる「おとな←→こども」のような名詞や、「あける←→しめる」のような動詞も入っています。
※ただし、絵は事前によくチェックしておく必要があります。絵の中のどの部分にフォーカスするかを学習者にはっきり伝えないと、学習者が誤解する絵もいくつかありそうです!また、下に小さな字で英語訳がついているのですが、そこも誤解の元となることがあるので見せない方がいいかもしれません。
ジェスチャー
初級の場合、ジェスチャーもよく使います。
物事を記憶する優位な「感覚」は人によって違いますから、時間が許す限りできるだけいろんな感覚を組み合わせて刺激した方が覚えやすくなると思います。
言葉を耳で聞き、文字を目で見るだけでなく、教師の動作を見て、時には学生にも同じ動作をさせながら声に出して言葉を言わせて、さらに字で書かせたり・・・といった具合です。
・・・教師はピエロになる必要はありません。
が、学生に本当に利があることだと思うなら、多少、学生に笑われる(というか、笑わせる、そして脳裏に焼き付ける!)動きをしたりすることも必要かなと思います。恥ずかしがってはいられません。
コロケーション
コロケーションというのは、よくいっしょに使われる二つ以上の言葉の組み合わせのことです。
たとえば「着る」だと「服を着る」、「ぬぐ」だと、「服をぬぐ」「靴をぬぐ」といった表現は、とてもよく使われますよね。「食べる」だと、「ごはんを食べる」とか。
そのように頻繁にいっしょに使われる言葉のことです。
これをセットで教えてしまうこともあります。
「着る」を学ぶときに「服を」を組み合わせて覚えておけば、後になって日本語学習者の多くが悩まされる助詞の問題も、迷うことが少なくなります。
よくある下のような問題ですね。
問題 : 服( )着ます。
答え : 「を」
ただし!
初級レベルですから、本当によく使われるものだけに限定しなければ、かえって学習者は混乱します。
様子を見ながら加減することが大事です!
注意点
冒頭で述べた通り、初級の語彙指導で一番大事なことは、学習者を迷わせないことだと思います。
そのために常に気を付けていることは、以下の二つです。
教師は、余計なことを言わない。
学習者を、余計なことで混乱させず、語彙に集中させる。
日本語教師は、日本語について当然学習者よりずっと多くのことを知っています。また、授業準備をする中で、ある言葉についておもしろい背景や語源などを見つけるかもしれません。でも、それをすべて披露することは、初級では避けます。ただでさえ初級学習者の頭の中は「いっぱいいっぱい」であるはずです。そこにさらに盛り込んであふれさせるのは、やめましょう(笑)
また、「余計なことで混乱させず」については、私も何度も苦い失敗をしています。
たとえば、私は駆け出し日本語教師の頃、直接法のクラスで「鳥」という言葉を教えるのに、なぜかスズメの絵だけしか描かれていない絵カードを見せて教えてしまったことがあります・・・。(当時は今より明らかにスズメが多く、一般的に街中で見かける鳥といえば、スズメかカラスかハトか、と言った感じでした。)
これでは、「鳥」という言葉がbirdなのか、sparrowなのか、分かりませんよね・・・。
ちゃんと意味が一つに絞れるように、確定できるように教えることが、できていませんでした。学生を混乱させてしまったと思います。(もちろん辞書で調べればすぐに分かることではあるのですが…)
また、言葉の意味を伝えることが一番の目的ですから、説明するときは本当にシンプルな語彙文型を使うことも心がけています。
既習のものを使うことは基本ですが、たとえ既習であっても、ちょっと難しいかな?まだ学生全体にしっかり定着していないかな?と思われるような語彙や文型は、できるだけ使わないように気を付けます。
おわりに
以上、初級クラスでの「語彙」授業の一例を紹介しました。
初級で出てくる語彙は、日本で暮らす上で本当によく聞くシンプルな言葉がほとんどです。日本に来て間もない学習者たちは、キラキラした瞳で(笑)スポンジのように語彙を吸収してくれます(例外もいますが!)。・・・私は初級の学生に語彙を教える時間、楽しくて好きです。
中級以上になると、ややこしい言葉も増えてくるので絵カード等が使えない場合も多く、ちがう工夫が必要になってきます。それは、こちらの記事にまとめていますので、よろしければどうぞお読みください!
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