登録日本語教員の制度(日本語教師の国家資格化)が今年2024年4月からスタートしています。
現在はまだ「経過措置期間」ですが、これを経て今後日本語学校(告示校)で働く場合は、この資格が必要になります。
この制度に関しては一日本語教師として言いたいことが山ほどあるのですが・・・。
この記事の結論を先に言ってしまうと、
国が外国から人を呼び込んでいるのだから、彼らが日本社会に溶け込めるよう、国が責任を持ってください。そのために必要な日本語教育業界もちゃんと支援してください!登録日本語教員を増やしたいなら、日本語学校に処遇upを促してください!
ってことです。
国が言っていること
下は、文化庁のサイト(【日本語教育の質の維持向上の仕組みに関する有識者会議】令和5年の報告)からの引用です。
※赤太字・ボーダーラインは、私(記事執筆者)がつけたものです。
今後の留学生や外国人労働者の増加を見据えて、日本語教育の機会及び必要な日本語教育の環境整備を質・量の両面から充実していくことが不可欠
日本語教師の処遇について、年間収入や、雇用単価等において、専門性が評価されておらず厳しい状況にある
そして、この会議で配布された参考資料の中には、⇩このようなものも。
な~んだ。
国もちゃんと問題点分かってるんじゃない。
と、安心したのですが。
・・・いやいや、でも・・・
素朴な疑問① 質と量って・・・?
質と量って、同時に上げていけるものなの?
普通に考えて、質を担保するなら量は減っちゃうんじゃないの??
一般的には、質を高めようとすれば生産量は減り、量産すれば質は落ちるものではないでしょうか。
日本語教師にしても同じで、日本語教育の質を保つためにはしっかり試験をパスし、実習を経た人だけを選抜しなければならないわけで、今までより狭き門になるはずですよね。
(きちんと試験や実習のレベル(合格ライン)を保てるのなら、ですが)
それなのに人数は本当に増えるでしょうか・・・・・?
素朴な疑問② 処遇って・・・?
処遇が厳しいなんて言ったって、具体的に改善できる方法あるの?
日本語学校の学習者の多くはアジアからやってきます。
日本より経済水準が低い国が多いです。
そういうところからやってくる人たちが多くのお金を払えるわけがなく、学費を上げることは難しいと思います。
それなのにどうやって教師の処遇を改善するんでしょう?
国が補助金を出すとかして、保証してくれるのでしょうか???
介護事業所に交付される『福祉・介護職員処遇改善臨時特例交付金』のように・・・。
※ただし、日本語学校の多くは「会社」です。経営を続けている以上、利益はあげているはずです。それを働き手に十分に還元していない学校は、論外です。ずっと新人時代と同じ時給で働き続けている知人の先生がいますが、そういう学校は経営者の考え方がおかしいのだと思います。
弁護士の「質の向上と量の確保」のために始まった制度は・・・
国の目論見どおり「質」も「量」も確保するためには、日本語教師を仕事として目指す人を増やすしかないでしょう。
この先志望者がぐんと増えて、かつ、登録日本語教員の試験や実習の難易度をある程度の水準を保ったものにしていければ、質も量も同時に上げていくことができるかもしれません。
国家資格化についてはニュースや新聞でもそこそこ大きく取り上げられましたし、以前より仕事としての認知度は多少、上がったとは思います。
多少。
ですが、それが志望者増に結び付くかどうか・・・。
・・・かつて、弁護士の質の向上と量の確保のためにロースクールの制度ができたとき、全国各地の大学が参入しました。
が、今や多くの大学が撤退し、弁護士もそれほど増えることもありませんでした。
そもそもの志望者が減ったからだそうです。
原因はいろいろあるのかもしれませんが、せっかく頑張って弁護士になっても、待遇が約束されているわけではないことも原因の一つじゃないかなと思います。
実際、そういう話をしている弁護士の話を聞いたことがあります。
参考までに、弁護士の収入所得について、詳しくはこちらをどうぞ:日本弁護士連合会基礎的な統計情報(2023年)
どんな印象を持たれますか?
弁護士の所得・・・意外と・・・低い人もいるんだなと個人的には感じました。
もちろん、弁護士と登録日本語教員ではまったく違う職ですし難易度も雲泥の差があるでしょうが、国の最初の目論見は同じ(質の向上と量の確保)だったのに失敗した例として、とても気になります。
登録日本語教員の制度も二の舞にならなければいいのですが・・・。
国家資格を取る明確なメリットがあれば、取る人は増える
国家資格を取得するメリットって何でしょう。
国家試験は多々ありますが、たとえば介護福祉士。
肉体的にも精神的にもきつく大変な仕事であるわりに薄給で、万年人手不足の業界だといわれています。
しかも資格がない人でも同じような仕事を任されることが多いようです。
そういう資格の場合、各施設任せにしていては待遇の大幅アップは望めないと思います。
そこで介護職には処遇改善加算が上乗せされるのです。
それは国が、国として必要な職だと認めているからです。
日本語教師も同じだと思います。
この資格を取得すれば告示校で働ける、というのは、今は明確なメリットにはならないでしょう。
お給料が安いのですから。
そして告示校以外でも日本語教師の仕事はあるのですから。
もし告示校で働くことで良い収入が得られるのなら、とても分かりやすいメリットになります。
もともと大きな「やりがい」のある仕事だと思いますし、かつお給料も悪くないね、と言える仕事なら、なりたい人はぐんと増えるのではないかと思います。
冒頭の文化庁のサイトからの引用にあるように、人手不足なことも、処遇が厳しい(=薄給である)ことも国は知っています。
しかも日本語教師の人手不足を招いたのは、ほかならぬ国です。
日系人を受け入れ、留学生を増やし、技能実習やら特定技能やら、いろんな在留資格を作りました。
つまり日本語教育が必要な人が増えた結果の、今の日本語教師不足なわけです。
・・・「これから日本語教師が必要になりますから国家資格にしますよ、あとは自助努力で頑張ってください」では、弁護士のロースクール制度と同じ運命をたどると思います。
国家資格を取った教師のお給料を一律〇万円アップ、という約束をしてくれればいいなと思います。
日本語教育は日本のより良い未来への投資
日本語教育は、日本社会の未来のために必要な投資だと言えると思います。
何もしなければ、外国人が増えるだけで、日本人社会に溶け込まない、なじまない「○○国人タウン」的な町がたくさんできていきます。(既にできていますよね)
もちろん、うまく異文化交流が進み多様性の認められる平和な街に発展していくのならいいのですが、「日本語教育」「日本語支援」がちゃんと行きわたらないと、そうはならないと思います。
こちらの記事やこちらの記事に書きましたが、学齢期に日本へやってきた子供たちへの支援も足りません。彼らを放置すればどうなるか・・・どんな大人に成長するか・・・容易に想像ができると思います。
日本の未来にとって、日本人にとって、明らかに損益です。
彼らは教育次第で母国との懸け橋にもなってくれるかもしれない宝物です。大切に育てるべきです。
もちろん子供たちだけではありません。日本で学び、働くことを選んできてくれた人々もそうです。
日本語学校や大学・専門学校、就職後。もちろん、彼らの、学齢期でない家族。あらゆる場面で日本語教育は必要とされています。
その「あらゆる場面」に、告示校から登録日本語教員を派遣するようにしてはどうかと思います。
以前私が携わっていた自治体では、一般的な教員免許の保持者が公立学校で日本語講師を務めていました。幼稚園から高校まで、そしてどの教科の免許であっても、日本語を教えていたのです。日本語教育の「に」の字も知らない先生にとってはとても大変だったと思います。
そういう公立学校の現場も含めて、登録日本語教員が専門家として活躍できる日が来ればいいなあと思います。
告示校の「客層」を考えると、自助努力には限界がある
繰り返しになりますが、現在告示校の主たるお客様である留学生の多くは、アジアからやってきます。
彼らの母国の経済状況を考えれば明らかですが、学費を大幅に上げることなどできっこありません。
つまり日本語学校の自助努力には限界があるのです。
きちんと日本語教育をまじめに行っている機関(の審査は必要です!)に、人に、相応の支援をしていただきたいものです!
と同時に、告示校の留学生ではない人への教育にも、登録日本語教員が携わりやすい状況に、国が率先して持っていって欲しいなと思います。
・・・・・と、夢想する一日本語教師の長文にお付き合いいただき有難うございました!
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