日本の企業で外国人が働く場合、JLPTのN1やN2以上が求められることが多くあります。
が、日本語教師なら知っての通り、JLPTの保持級と日本語の流暢さは、必ずしも比例しませんよね・・・・・。
JLPTの課題
JLPTには次のような課題があると思います。
その結果、所持する級と、「その級ならこれぐらいできるよね!」と期待される日本語能力とが一致しない、ということが起こります。
会話の試験がない
JLPTは公式サイトで「コミュニケーション」能力を測るとうたっています。
(※この点については、こちらの記事に、公式サイトの文を引用していますので、よければどうぞ。)
が、会話の試験はありません。
聴解試験はありますが、聴けることと話せることとはもちろん違います。
ですから、JLPTでは会話力は測定できません。
また、記述式の問題もありませんから、正確な作文能力も測定できません。
とういことで、JLPTのN1持ってるのに・・・「残念!」な状況が生まれたりします。
実際、やはり中国をはじめとする漢字圏出身の人は漢字というアドバンテージがありますから努力次第(もちろん必要!)でN1も取得しやすいと思います。
が、会話(や作文)になるとそれほど上手ではないという人、結構います。
終了後に問題が漏れる、なぜ
JLPTの試験問題は公式には公開されません。
にもかかわらず、試験が終わるとSNSに問題がアップされる状況が毎回起こります。
受験者がカメラで撮っているのでしょう。おそらく。
これ、試験監督はどうなっているの?と思ってしまいます。
日本語母語話者(多くの日本人)は試験を受けることができないというルールがあるので、実際に会場に行ったことのある日本人の日本語教師はいないはずです。
ですから確かめようがありませんが、受験者の中には「やろうと思えば簡単にカンニングができる」なんて言う人もいます。(たくさん)
過去に私が教えていた学校でも、「絶対にそんなレベルじゃないよね?」という学生がN2(他の級も)に合格したケースが複数あります。
日頃から「カンニングはだめ!」と徹底していたのですが、彼らも必死です。
なにしろ就職や進学がかかっているのですから。
そのためにJLPTの級が必要となれば、合格のために手段を選ばない人が出てきても不思議ではありません。
教師間では「ま、目がよかったってことだろうだね」という結論に落ち着きました。
(つい最近のニュースで、某有名私大の入試に関してですが、カメラを使用した不正があったことも報じられていました)
もう少し厳格に監督できないものなんでしょうか。
企業側の勘違い
企業側もこうした実情をふまえた採用ができないかな?と思います。
この人はすごい。N1があるんだ。それなら、話すことも書くこともすごく上手にできるはずだな。
・・・というのは想像でしかありません。
反対に、
この人はN3? この人はN4?? それぐらいしか持っていないということは、日本語があまり分からないのだろう。会話も通じないだろうから、面接に来てもらっても仕方ないな。
・・・というのも想像でしかありません。
こういう前提で採用試験を進めると、ミスマッチが起こります。
読み書きは苦手だけれど会話は得意で、日本的なコミュニケーション方法もかなり理解しているという人は、たくさんいます。(そういう人は日本人の友人も多いですから)
N1とかN2とか、それも本人の努力の証としてもちろん評価されるべきだと思いますが、資格の有無だけで選別してしまわず、ぜひ実際に本人に会って、話をしてから総合的に判断してほしいなあと思います。
※JLPTを取得しようと思うと、漢字圏以外の出身者は、漢字圏出身者の数倍の努力が必要です。ですから、N1やN2がないからといって「努力が足りない人だ」という判断も早計です。そのことを、ぜひ採用者に分かっていただきたいと思います!
日本語学校で起きること
学習者も企業採用者もJLPTのことばかりにとらわれすぎると、日本語学校や進学先の専門学校・大学でもそのための対策に非常に時間が取られることになります。
もちろんJLPTの勉強には一定の意味があるとは思います。
(とはいえ、実際の試験問題は非公開ですから、各学校の授業が正しい対策になっているのかどうかは明確に分からないのですけれど…。ま、たくさん対策の本は出ているので、それを信じて使うしかないですね)
が、それだけでは日本語能力を総合的に伸ばすことはできません。
もっともっと、会話の時間や体験の時間、コミュニケーション能力を伸ばせる「日本語」の授業を増やした方が、有意義ではないでしょうか?
日本語を身に付ける目的は、それをツールとして日本人と話したり、文化を理解したりすることです。
JLPT自体は【目的】ではないはずですが、現状、そうなっている面があるように思います。
とても残念です。
ちなみに、日本語教育振興協会(いわゆる日振協)のサイトで日本語教育機関を検索すると、
https://www.nisshinkyo.org/search/各学校の紹介のところにJLPT受験者数と合格者数が掲載されています。日振協はそれによって日本語学校の教育レベルや学生レベルを評価しているわけではないでしょうけれど、そういう掲載があると、学校側は「JLPTでいい結果を出したい」と意識してしまうのではないでしょうか?
最後に・・・
日本語能力を測る試験としては、JLPTは押しも押されもせぬ圧倒的な存在感を放っています。
・・・日本語能力を測るテストは他にもいくつかあり、「会話力」や「作文力」が判定できるものも実はあるんですけどね。私の知っている学習者はあまり受けたがりません。これがもっと認知されればいいなあと思いますが。
もっといいと思うのは、JLPTに会話力と作文力チェックをプラスすることです。これだけ世界的に受験者が多く認知度の高いテストですから、この二つが加われば鬼に金棒だと思います。
・・・受験料がグンと跳ね上がっちゃうかな???
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