いただかせていただく…「いただく」+「いただく」…この言葉、奇妙に感じませんか?
感じない、という人は、まだ少数派ではないでしょうか。
私は実際に初めて聞いたとき、単純に言い間違いかな?と感じました。
が、それ以降少しずつ耳(目)にする機会が増えてきた気がしています。
これは、
「いただく」という言葉に感じる敬意が下がってきていて、それを更に丁寧に表現するために補助動詞「~ていただく」をくっつけてみた
言い方だと思います。
昔は敬語だった言葉が、時とともにそうでなくなる現象
のためだと思います。
以前、「あなた」と言われるとムッとする日本人がいる、という記事を書きましたが、
それと同じことが「いただく」にも起きているのではないでしょうか。
敬意漸減(←読めますか!?)の法則
「あなた」という言葉は、昔々は敬語だった言葉です。
「おまえ」(←「御前様(ごぜんさま、おまえさま)」より変化)、
「きさま」(←「貴様」より変化)
という表現と同じです。
時とともに敬意が薄れていき、
今や失礼な言い方に転落(というか逆転!)してしまっています。
私は高校時代に古文の勉強をして、
「のたまふ」がちゃんとした尊敬語だったと知り、
驚いたことを覚えています。
今の時代に使うとしたら、
相手の発言を侮辱したり、揶揄したりするときではないでしょうか?
このように意味(というか使われ方)が逆転してしまった理由はハッキリ分かりませんが、
一般的には「言葉の敬意というものはすり減っていく」という法則があるようです。
「敬意漸減(ぜんげん)の法則」といいます。
※敬意逓減(ていげん)の法則とも。漸減も逓減も、量が減る変化を指す言葉です。
させていただく
たとえば「~いたします」という言葉。
自分の行為を示す動詞に付けて自分を低め、自動的に相手を高める表現です。
つまり謙譲語であり、立派な敬語表現です。
なのに、これがいたるところで「~させていただきます」化しているようです。
芸能人の結婚報告、
「かねてよりお付き合いさせていただいていた○○さんと、この度入籍させていただきました」
みたいな。
誰かと付き合うことも、入籍することも、
「~させていただく」ことではないと思います。
「~お付き合いしてまいりました」とか「入籍いたしました」で、
十分にその人の、
控えめな感じ?
性格の良さ??
いばっていませんよ感???
は、表せる(たぶん、そういう効果を狙っているのだと思います)と思うのですが・・・。
これも、「いたします」の敬意が下がってきた(と、感じる)ことと関係があるのでしょう。
あげる・さしあげる
もうひとつ、「あげる」とか「さしあげる」というのも変化しているように思います。
・・・私の父(いわゆる「後期高齢者」です)は、
私がペットの猫に食べ物を「あげる」というと、
妙な顔をするんですよ。
「やる」だろう?
と。
で、私、一度聞き返してみたことがあります。
じゃあ、「あげる」って言葉はだれに使えばいいの?
すると、ちょっとだけ悩んでいました。
・・・う~んと、だれだ?
「あげる」は明確な敬語とは言えないかもしれませんが、
本来は「上げる」ですからとても丁寧に渡すことだと思います。
ただの give という意味ではなく。
とはいえ、父自身も自分より「上」の人、たとえば恩師や上司だった人に「あげる」とは言わないのですよね。
友だちとか同等の人、もしくは自分の子ども等「下」の人に使いやすい言葉だと思います。
でも父の感覚では、猫では「下過ぎて」不自然なのでしょう。
(私は猫は家族の一員だと思っていますので「あげる」でなんの違和感もありませんが!)(笑)。
「さしあげる」も本来立派な敬語だと思いますが、
現代社会で上司や先生には使いにくいように思います。
(第三者に向けてならセーフかな?例えば「卒業式でお世話になった先生に花束をさしあげました」とか。でも面と向かっては言いにくいですよね…?)
こういうのも言葉にくっついている敬意が減ってきたことと関係があるのかなと思います。
他にも、二重敬語・さ入れ言葉など…
「おっしゃる」が「おっしゃられる」になるような二重敬語。
おっしゃる、では敬意が足りないと感じて、「られる」を付けてしまっています。
「やらせていただく」が「やらさせていただく」になるようなさ入れ言葉。
さ入れ言葉は、動詞の活用を間違えてしまった結果と言えなくもないですが、きっと敬意をきちんと伝えようと意識しすぎた結果の間違いではないか、とも思います。
日常化で特別感が薄れていく
ある特別だったはずの言葉が、多くの人に使われるようになると、少しずつ普通の言葉になってしまう。
日常的に使われることで特別なものと感じなくなってしまう、ということだと思います。
こういう現象は別に言葉に限ったことではなく、
あらゆる「物」にあてはまることだとは思いますが、
体系的なルールがある言葉、特にそこに敬意のような特殊な心情がのっかる「敬語」の場合、
特別な変化に感じるのですよね・・・。
ということで、今、普通に「敬語」として使われているものも、
いつかまた敬意が下がっていき、敬語として意識されなくなるのでしょう。
それでさらに特別感を盛ることのできる表現が新たに生まれるのではないかと思います。
いただかせていただく…
で、冒頭の「いただかせていただく」。
いつの日か、下のような会話が普通に聞かれるようになるかもしれません。
これ、出張のお土産のおだんご。みんなで食べて。
ありがとうございます!いただかせていただきます!
・・・さすがに言いにくくて定着しないかな?(笑)
どう思われますか?
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