【日本語学校】新出語彙の教え方≪中級、上級編≫

現役日本語教師の方

初級レベルの新出語彙の教え方に続き、この記事では中級・上級レベルでの教え方をまとめます。

中級以上のレベルになると、新しく出てくる言葉にも抽象的なものが増えてきますから、レアリアや写真は使いにくくなってきます。(もちろん、使える場合は躊躇なく使いましょう。時短になりますから。)

基本的には言葉(日本語)で言葉を説明し、理解してもらう必要があります。

※なお、これは中級以上の「語彙」として独立した授業での方法です。このレベルの読解や聴解の授業では、事前に新出語彙を教えることは、私はしません。たぶん他の先生もしていないと思います。学生が、分からない言葉が出てきてもいちいちストップせず、全体で意味をつかめるようになることが目標なので。(ほよど特殊な語彙が全体のキーワードになっている場合は別ですが、そのようなものはあまりありません)。

※「語彙」の独立した授業ではない場合の、語彙の教え方のポイントについては、こちらの記事をどうぞ。

最初に言葉で意味を説明します。

が、初級のように一発で理解してもらえる語彙ばかりではありません。

説明文は、複数準備しておきます

私は三省堂の『新明解国語辞典』を常に手元に置いています。こちらの辞書です。いくつかの版があり私は赤い本を使っていますが、青もきれいですね!日本で一番売れている辞書だそうです。

Bitly

辞書としては珍しい「個性」があり、とてもおもしろい辞書なので高校時代から既に30年以上(笑)愛用しているのですが、日本語学習者への意味の伝え方を考えるときにも非常に参考になります。一般的な辞書の説明とは一味違います。

また、ネットのweblio類語辞典で、言い換えられそうな表現をチェックしておきます。

こうしたものを活用して、いくつかの角度から一つの言葉を説明できるように準備しておくといいでしょう。

初級よりもしっかりとコロケーションを扱うようにします。

最近の留学生は分からない言葉に出会ったとき、紙の辞書よりスマホで調べるようになりました。

その場合、どうしても情報量が少なく、言葉の意味しか出ていない(あるいは出ていても読まない)ことも多いようです。

特に中級以上の抽象的な語彙の場合、どんな言葉と組み合わせてどのように使うのかまで知らないと、その言葉を本当の意味で理解することはできないと思います。

ですから、よくセットで使われるコロケーションがあれば、それを省かず、しっかり紹介するようにしています。

コアイメージというのは、【ひとつの言葉がもつ、中心の核(core)となる意味】のことです。

学習者がある言葉の意味を覚えたとします。その言葉が文章の中に出てきたとき、

あれ? この言葉がどうしてここで出てくるのだろう? 自分が知っているこの言葉の意味と違うような・・・???」

と悩んでしまうことがあります。

一つの同じ言葉であっても、前後の文脈によっては違う意味のように思えて混乱するのですよね。

そんなとき、その言葉の持つ中心の核(core)になる部分の意味を知っていれば、そこから「ああ、これはこういう意味で使っているのかな」と類推できることが少なくありません

・・・私が中学生の時の英語教師が、onについて絵を描いて教えてくれたことがあるのですが、あれがコアイメージだったのだなあと今思います。

onは、「~の上に」。

中学生の私の頭の中にはそのような「日本語の言葉で」インプットされていました。

が、壁にかかっている絵を「There is a picture on the wall.」と表している文を見て、

「え? なんで壁の『上に』絵があるの? 上って変じゃない?」

と思ったのです。

すると先生は、平らな面に何かがぴったりとくっついている絵を描いて教えてくれました。

これが「on」だと。

なるほど、机の上にある本も壁にある絵も天井にいるヤモリも、onなわけです。

そのコアイメージが頭にあれば、壁にかかる絵がonであっても、そこで悩まずに済みます

日本語学習者にも、できるだけ分かりやすいコアイメージを伝えていきたいと思っています。

とはいえ、初級(特に前半)でこれをやってしまうと学生の頭の中にかえって混乱を招きかねません。初級後半から中級にかけて少しずつ紹介していく…というイメージです。

※ コロケーションやコアイメージに関しては、こちらのサイトがとても便利です。大規模コーパスを活用して作られたもので、信頼度抜群です。収録された言葉は多くありませんが、無料ですし、非常に参考になります。コロケーションやコアイメージ以外にも、その言葉に関してとても詳しい説明があります。一度のぞいてみてください。「ハンドブックで調べる」をクリックすると、五十音順に動詞が出てきます。

語彙を教えるなら、学習者がその語彙に出会ったときに意味が分かるだけでなく、自分でも使えるようになることを目指すべきだと思います。(上級になると、聞いたり読んだりしたときに分かればいいだろう、という言葉もありますが・・・)

とすれば、その語彙がどういう場面でよく使われるのか、を教える必要があるでしょう。

同時に、どういう場面では使われないのか、も教えておくべきだと思います。

中級以上になってくると、その人と話す日本人も「ああ、この人は日本語が話せるんだな」と思って接することが多いですし、学習者の方でもそういう接し方をしてもらいたいと望んでいます。

明らかに初級レベルの学習者であれば、ある言葉を多少不適切な場面で不適切な使い方をしてしまっていても「ああ間違ったんだな、仕方ないな」で許されることはあります。

が、中級以上になると、そうも言っていられなくなります。

ですから、よく使われる場面と、この言葉がふさわしくない場面があるならそれも、一緒に教えるようにしています。

例えば「推薦」という言葉。N2あたりで出てくる言葉だと思います。この言葉の意味を理解した学習者が、日本人の友達に

こんど京都に行くんだけど、どこか推薦する場所はある?

なんて言ったらどうでしょう。・・・日本人は普通に京都の観光スポットを「推薦」すると思いますが、頭の中では「推薦ってここで使うのは変だなあ」と感じることでしょう。

「推薦」というのは、入学試験や入社試験、選挙、または非常にお堅いビジネスシーンなど、推薦する側と推薦される側が、かなりカッチリした公的な関係性の中で使われることの多い表現です。推薦する人は自身の信頼度をかけて、ヒト(やモノ)の品質を保証し、薦めるわけです。

つまり、友人やフラットな関係での会話の中にはあまり使わない表現だということを教え、同時に、「おすすめ」という、モノを勧める場合に汎用性の高い便利な表現も提示しておくといいと思います。

こんど京都に行くんだけど、どこかおすすめの場所はある?

友人同士の会話として、自然になりました。

こうした、言葉の使われやすい場面や、相手との関係を教えることも、言葉の意味を教えることと同じぐらい重要なことだと思います。

覚えた語彙を実際に自分でも使える語彙にするためには、アウトプットが重要です。

できるだけその語彙を使った例文を作らせるようにしています。

辞書やネットから安易に拾ってくるのでなく(参考にはしますが)、短くてもいいから自分らしい文を作成するよう指示します。(もちろんそれが適切な文かどうかのチェックは教師がします。)

その上で、その例文を覚えるように伝えます。

自分で考えた例文の方が覚えやすいでしょうし、後から思い起こしてもイメージしやすいからです。

ただしこれは時間がかかることなので毎回はできませんし、基本的には宿題にします。時間が余ったときのみ授業中にさせます。また、すべての語彙を宿題にするわけではありません。中には意味が分かれば十分な言葉もあると思います(特に上級で。中級の語彙は基本的には自分でも使えた方がいいとは思いますが、試用頻度の低い言葉はあります)ので、それは教師が判断して、はずします。

中級からは言葉で言葉を説明する、と書きましたが、これもいきなりだと難しいですし学生も戸惑うでしょう。

段階的にレベルを上げていくようにします。

特に中級前半では、初級同様、説明に使う語彙や表現もあまり複雑にしない方がいいでしょう。

学習者の頭が混乱しないよう、余計なことに頭を使わせないよう、コントロールしながら教える方がいいと思います。

が、その後徐々にレベルが上がり上級になってくると、話は別です。

上級者は、日本の大学で日本人と机を並べて勉強したり、社会人として日本人の同僚といっしょに働く将来がすぐ先に迫っているはずです。

極力、一般的な日本人が社会で使うような語彙表現・スピードで、ふつうに説明をします。

たまに、かなり上級者に向けてもまるで初級者に対するような話し方をする人がいますが、それはやめた方がいいですよね。

学校の中では話が通じるのに、外では全然分からない・・・となりがちです。(留学生あるあるです)

上級者に対しては、バシバシ行きましょう(笑)(私はこのレベルの授業では、こちらの記事に書いたように、かなりウルサイ先生になります)

最後に、全レベルにおける注意点です。

語彙の学習では、文字だけでなく、「音」が大事です。

日本語学習において文字優位の学生(母語の影響による得意不得意だけでなく、個人の得意不得意もあります)もいます。

が、当然のことですが、口頭のコミュニケーションにおいては耳で聞いて理解できることが必要です。

ですから、発音やアクセントにも配慮して、正しい音で覚えさせるよう注意しましょう

聴解力アップにもつながります

・・・以前、私はコーヒーのことを、なぜか「コ」を高く言っていました。英語のイメージです(笑)理由は分かりませんが、私の実家ではみんなそうでした。ところがある時、それが標準ではないことに気づき、びっくりしました。もし私のこの高低アクセントで「コーヒー」を覚えた学生は、他の人の「コーヒー」を聞いてもすぐにはピンとこないかもしれません。

自分の無意識の癖を認識するのは難しいことですが、日本語教師としては、日頃から自分のメタ認知(笑)にも励みたいものです。

なお、初級レベルの新出語彙については、こちらの記事にまとめてあります。

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