「日本語教師」には、
資格を持って日本語教育を提供することで対価(お給料)を受け取るプロと、資格を持たずに日本語教育を行うアマチュアの人がいます。
活躍する「場」が基本的には違います。
プロは日本語学校をはじめとして幅広い場で仕事をしますが、アマチュアはボランティアやオンラインレッスンが中心になると思います。
その棲み分けは大事だと思っています。
が、そう考えない先生もいるようで・・・。
今回の記事に書くのは、以前私が勤務していた日本語学校であった実話と、そこから考えたことです。
お時間のある方、お付き合いください。
プロ教師とアマチュア教師。
文化庁による令和4年度の調査によると、いわゆる「日本語教師」は国内に約44000人いるそうです。
そのうち、非常にざっくりとですが、半分ほどはボランティアの先生のようです。(これは令和3年度の調査ですが、下の報告を下方へスクロールしていくと、11ページにグラフがあります)
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kokugo/nihongo/nihongo_113/pdf/93751201_05.pdf
ボランティアには「有償」のものもあるかもしれませんが、おそらくほとんどの先生は「無償」かそれに近い状態で教えていると思います。実際私が住んでいる自治体でも無料の日本語教室が開講されており、地域の有志の人たちが支えています。
これは素晴らしい取り組みだと思います。
日本に住む外国人は急激なペースで増えています。彼らが日本の地域社会に根付いて問題なく暮らしていくために必要な支援だと心から思います。
が!!!
ボランティアの先生は日本語教育に関してはアマチュアの人が多いですし、語弊があるかもしれませんが、できればアマチュアの方にお任せしたいと私は思います。通ってくる人も、日本語の勉強より地域の人との交流や会話を求めている場合が多々あり、そういうニーズに合うと思います。
私自身は、日本語教育に限らずですが、「様々な資格を持つプロはその腕をあんまり安売りするものではない」という考えです。
プロが自ら地域の無料日本語教室で教えることを否定はしませんが(本音はあまり賛成ではありませんが、自由なので否定はできません。実は私も過去に短期間やったことがありますし。)、その感覚を「日本語学校」に持ち込むのはやめてほしい!と強く思うのです・・・。
かつて某日本語学校で驚いたできごと。
かつて、私が勤めていた学校で、
JLPT(日本語能力試験)対策として、週末に時間をとって特別講座をしましょう!
と提案した先生がいました。クラスの学生に頼まれたようです。
私も放課後時間のある時などにちょっとした補習らしきものをしたことはあります。体調をくずして欠席がちだった学生などに対して。
でもその先生は、土曜日の〇時から〇時まできちんと時間をとって特別なクラスを開講したいと主張したのです。
なんと、無料で!
驚きました。なんて「いい人」なんだろうと思いました。学生が困っているならしてあげたい、というボランティア精神にあふれた先生です。
でも私は大反対でした。私が担当することはなくても、大反対でした。
たとえば、
病院へ行って診察が終わったところで、医者に、「実はここも痛いんです。完全に元気になりたいので、診てください。ただで」という患者。
美容室へ行って髪を切った後で、美容師に、「もう少しイメージチェンジしたいんです。前髪にメッシュを入れてください。ただで」という客。
訪問介護で普段通りの手伝いをしてもらった後、介護士に、「今日の夜、行きたいところがあるんです。後で連れていってください。ただで」という利用者。
日本語学校で通常の授業の後、日本語教師に、「JLPTに合格したいので、週末にも教えてください。ただで」という学生。
全部、同じことだと思います。
ありえません!
資格をもつプロが教えるということ。
日本語学校で教えるために、教師はみんなそれなりにお金や時間をかけて資格を取ります。
私自身は日本語教育能力試験のために本を何冊も購入し、数か月間忙しい中で時間をやりくりして勉強し、試験のために高い受験料を払い、そしてあの長い一日を乗り越え…受験した方なら共感していただけるかと思いますが、途中で何度も集中力が切れそうになる自分を鼓舞してなんとか長時間にわたる試験に耐え、終了後はくたくたになりました…、ようやく得た、そういう大切な「資格」です。
アマチュアの人とは一味違うぞ!という自負があります。
少なくとも、アマチュアの人よりは日本語について普段から考え、学び、詳しく知っていると思いますし、教え方も分かりやすい(たぶん)と思っています。
プロがプロとして自分の仕事をするのですから、適切な対価はいただくべきです。
土曜日に特別講座を開くなら、教室とプロの教員の確保、教員の授業準備にかかる手間と時間。そういう物に対して、きちんと対価を支払ってもらうべきです。
日本語学校は、会社です。
日本には独占禁止法というものがあって、不当な廉価販売は同業他社への悪影響から禁止されています。
もちろん、上記の先生の提案がこれに当たると言うつもりは毛頭ないですが(違うので)、でも似ていると思います。
たぶん提案した先生がこれを実際に請け負ってしまったら、それを拒否する先生は「悪い先生」だと評価する学生が出てきます。全員ではないでしょうけれど。
学校では学生ファーストであるべきだと私も思いますが、それは学生がお客様でもあるからです。
お客様は大切にします。が、
対価なしでサービスを受け取ろうとする人は、そもそもお客様ではありません。
・・・この提案は、何人かの先生が賛成したものの、反対多数で実際には見送られました。ホッとしました。
(実際もしやっていたら経営陣からストップがかかったのでは、と思います)
日本語学校が会社であることについては、こちらの記事【日本語教師に向いているのは、ズバリこんな人!特徴7つ】でも触れていますので、よろしければお読みください。
わたしたちが目指すべきは・・・
私たちは、学生から「お金は払えませんけれど特別講座をやってください」ではなく、
「お金を払います。だから特別講座をやってください」と言われることを目指すべきです。
そう言われるぐらいの素晴らしい価値のある授業を普段から提供できるよう、努力していきたいなと思います。
繰り返しますが、学習者はプロによるサービスに対価を払うべきです。
とてもやりがいのある仕事だと思いますが、やりがいを学習者に搾取されるべきではありません!
(もちろん、経営者に搾取されるべきでもないです。そのことについては後日、別記事にしたいと思います)
日本語教師が「国家資格」になった今、特に強く思うことだったので、記してみました。
・・・一日本語教師の長い独り言のような文章を最後まで読んでくれた方、ありがとうございました!
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