やる気のない日本語学校留学生に、私がやってみたこと。

現役日本語教師の方

ご存じの通り、日本語学校もいろいろです。

校内どこを見回しても意欲的で目をキラキラ輝かせた留学生ばっかり・・・な学校も、中にはあるのかもしれませんが、残念ながら私は知りません。

大多数の学校に、勉強しようとしない、何も覚えない、何もしようとしない、やる気ゼロ、の留学生が一定数存在していると思います。

私がかつて専任で勤めていた日本語学校にも、いました。

担任をしていた10人ほどのクラスの中に、2名。

そのうち1名は欠席がちでそもそもあまり教室にいませんでした。

262の法則と言います。この法則については、こちらの記事『【日本語学校】クラス内にレベル差があるという悩み:262の法則』をどうぞ。)

もう一人の方は教室には来るのですが、授業が始まると居眠り。授業を聞かない。宿題もしてこない。おしゃべり。注意するとふてくされた表情で携帯を見たり、寝たり。テストも勉強してこないから分からず、周りをキョロキョロ、あげく机に突っ伏して寝る。

仮にこの留学生をRさんとします。

この記事は、Rさんに対して私がしたことの記録です。

まず王道の、個人面談

状況を把握して意欲がない理由を探ります。

なぜ居眠りをするのか、宿題をしてこないのか、というところから質問を広げて、日々どんな生活をしているのかを聞き出しました。

案の定、夜にアルバイトをしていて寝不足なのでした。

しかもアパートでは同じ国からの留学生数名で一部屋をシェアしている(留学生あるある)ため、睡眠中もなかなか落ち着いてグッスリというわけにはいかない様子。

日本語学校卒業後の目標も聞きました。

一応「専門学校」という答えが出てきましたが、専門学校で何を勉強したいのかも明確ではありません。

とにかく簡単に入学できて、学費の安い学校ならどこでもいいという感じでした。

自分の先輩(同じ国から一歩先に留学した知り合い)も自分と同じような日本語レベルで入れた専門学校があるから、自分も「だいじょうぶ」だと言うのです。

ああ、出ました、「だいじょうぶ」・・・。

留学生の「だいじょうぶ」は、多くの場合実際には全然「だいじょうぶ」ではないのです!
(もしよければ、コチラの記事「留学生の「だいじょうぶ」劇場」もお読みください…)

でも留学生本人は、日本語教師の話よりも同国人コミュニティの先輩の話を信用しがちです。

そしておそらくRさんもその先輩も、日本へは出稼ぎ感覚でやってきたのでしょう。

よくあることです。

Rさんには、今のままではずっと初級クラスから上がれないことや、専門学校への推薦も無理であること、万一どこかの学校に入学できてもその後に満足できる仕事に就くことは難しいだろうということ、等を話してみましたが、全然響いていないようでした。

勉強よりアルバイトが重要。稼げるだけ稼ぎたい。日本にいるためにビザが必要だから学校には来ますよ。卒業後は手軽にビザがゲットできるならどこの学校でもいいですよ

そういうことです。留学生がビザを更新する際、入管はその学生の出席率を審査します。

Rさんの態度(というか、生活)を変えるのは困難であることを、改めて突き付けられただけの面談に終わりました。

その後教員室で他の先生に盛大に愚痴ったことをよく覚えています。

それまで私はやる気ゼロのRさんをなんとか授業に引き込もうと、手を変え品を変えRさん(や、Rさんを含むクラス全体)に働きかけていました。

眠そう(or 寝ている)なら、全員を巻き込んでストレッチをさせてみたり、顔を洗うよう促してみたり。歴代の学習者たちにウケてきた楽しいミニゲームやクイズをしてみたり。(例えば、こんな風なこと(『【日本語授業】簡単にできるおススメ活動ネタ~意外と盛り上がります』)を、そのクラスのレベルに合わせてアレンジして)。

もちろんあまりにひどい時にはRさん名指しで強めの言葉を使って注意することもありました。

そんなときRさんは、とりあえず顔をあげて(うつろな目で)私を見て、一応私の言葉を聞くのです。

みんなと一緒に行動する時もあります。

でもその一瞬限り。すぐに元の木阿弥でした。

・・・そこで私は「押してダメなら引いてみな」、と言う言葉を実践してみることにしました。

いったんRさんのことを忘れる(教師の発言としては語弊があるかもしれませんが)ことにしたのです。

授業中にRさんを極力当てず、Rさんが宿題をしてこなくても「しかたないね~」くらいに抑えてサラっと流す。

ごくたまにRさんが「しゃんと」する時があるのですが、その時は逃さず他の学生と同様に発言を求めます。

が、それだけ。

決して特別扱いはしないことにしたのです。

Rさんに労力をかけている間(大げさかもしれませんが)犠牲になっていた、他の留学生の貴重な時間を優先するためです。

そうされることで、Rさんが自分の甘さや、他の学生に迷惑をかけてきたのかもしれないという可能性に気づいてくれるかな?という淡い期待もありました。

結果は、見事失敗。

最初のうちこそ「あれ?」という戸惑いが若干見られたRさんでしたが、すぐにその状況に慣れた様子で・・・結局Rさんは変わりませんでした

とはいえ、Rさんも大事なクラスの一員であることは確かです。

それに私も日本語教師のはしくれです。

注意されることもなくなり心おきなく眠り、落第して再度初級クラスになったRさんを見ているうちに、留学生として二年間も学校に通いながら(もちろん学費も何十万も払っている)、日本語をほとんど身に付けずに卒業することは、あまりにかわいそうだと思うようになりました。

本人がそう思わなくても、周囲から見ればそれは恥ずかしいことだとも思いました。

そこで私は再び方針を大きく変えました。

Rさんにグイグイ行ってみることにしたのです。

具体的には、授業中、彼に「注意」はしません。

ただとにかく少しでも、意地でも日本語の言葉を覚えさせようと、機会を見てはいろんな言葉を(押し付けるように)教えることにしたのです…。

たとえば授業中に出てきた新出語彙。

もちろんRさんは寝ている間、説明を聞いていません。

でもそんなRさんも4時間ずーっとグッスリなわけではないのです。たまに起きるタイミングがあります。

そこを逃しません。

他の学生に説明してもらったりしながら(説明するということは、その学生自身にとっても勉強になります)意味を教えました。

授業後は私からRさんへの個人攻撃(笑)です。

たとえば休み時間。廊下ですれ違うとき。帰りは玄関で待ち構えて。次の日の朝も。顔を合わせる度に言葉の意味を確認しました。

鬱陶しかったでしょうねー笑

寝てる子は起こしませんが、起きている子にはしつこく叩き込む作戦です。

結果、彼自身の授業中の態度は相変わらずでしたが、苦笑いしながら私のしつこさを受け入れてくれるようになりました。

たとえば「貼る」「なでる」「ゆずる」などの単語を叩き込んだことは今も鮮明に覚えています。

あれから10年以上たっていますが、Rさんも覚えていてくれる、と、いいなあ…。

少なくともRさん旅立ちの日(卒業式)には、覚えていてくれました!(しつこく確認済み)

当然、「そんなことをしていくつかの言葉を無理やり覚えさせることに、どんな意味があるの?」と疑問を持たれる方もいらっしゃるでしょう。

意味はないかもしれませんね。

Rさんにその言葉(貼る、なでる、ゆずる・・・)を使う機会があるのかも分かりませんし。

ですから、これは私の自己満足に過ぎないのだと思います。

それでも日本語学校の教師である以上、学校に来る留学生を手ぶらで帰すよりはマシじゃないかと思います。

それに私はそもそもRさんのために日本語教師としてやれることは全部やったつもりです。

それでも変わらなかったのですから、この留学生活をどんなものにするかを決めるのは完全にRさん側の選択、責任なのです。

私は日本語教師として自己満足できたので、これでヨシとしました。

私の備忘録のような上記の方法をマネしてみようという奇特な方はいらっしゃらないと思いつつ、最後に、万一のために注意点を三つほどあげておきます。

第一に、上記の方法は反抗してくるタイプの学生には使えません

危険な人はそっとしておきましょう

相手は若くても出稼ぎに来ている立派な大人です。

人格は既にほぼ出来上がっていると考えましょう。

日本語学校の留学生は危険を冒してまで教育する相手ではありません。

第二に、クラスがその留学生と同じ国出身の学生ばかりだと、うまくいかないかもしれません

かばいあうことがあるからです。

その場合教師が悪者になってしまいます。

いったん教師が悪者認定されてしまうと、その後のクラス運営が厳しくなります。

Rさんのクラスは国籍混合クラスでした。

第三に、そのクラスの授業を複数の教師が日替わりで担当している場合(このような日本語学校は多いと思います)、担当教師間での情報共有は念入りにしておきましょう

そうしないと、思わぬところから横やりが入ったりして、クラス運営がうまくいかなくなることがあります。(日本語学校では「思わぬ」ことが案外頻繁に起こりますから要注意です!)

いかがでしたでしょうか。

品行方正な留学生より、Rさんのような学生ほど卒業後に思い出す回数が多いのは癪ですが(笑)事実です。(262の法則でいうところの、下位2割は、忘れたくてもなかなか忘れられません…)

その後、私は「おしゃべり大好き、とっても明るい」ラテン系女子学生に振り回された時期があるのですが、この学生への対応はまた違う記事にまとめたいと思います。

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