日本語学校では、レベルごとにクラス分けをしています。
初級・中級・上級、学校によっては初中級や中上級のクラスや超級のクラスを設けたり、同レベル内でもさらにテストの点数等で細かく分けているところもあります。
とはいえ、学校も教室の数・教員の数は決まっていますから、当然、同じクラスの中にも「できる」留学生とそうでない留学生が混在することになります。
そうしたレベル差のある学生達を相手にどんな授業をすればいいか…難しい問題だと思います。
唯一の正解は、ない!
・・・かもしれませんが、悩んでいる方に読んでいただきたい記事です。
一日本語教師の考え方と、実践の一つの例としてお読みいただければと思います。
レベル差は絶対に存在する
「262の法則」をご存じでしょうか。
組織の中の人間は、2:6:2の割合で、下のような集団に分けられる。
①【2割】意欲的で、よく仕事ができる優秀な人たち。
②【6割】特に意欲的ではないが、やる気がないわけでもない。平均的な人たち。最多層。
③【2割】組織への貢献度が低い人たち。
簡単にまとめると、このような法則だそうです。
日本語学校を思い浮かべると、納得の法則だなあと思います。
これまで私が担当してきたクラスを思い出してみても、
・上位優秀層20%
・気分や成績にムラがあるけれどまあ普通の人たち60%
・勉強する気持ちが薄く、学校には出席率を上げるためだけに来ているような成績も下位の人たち20%
が、いたように思います。
・・・重要なのは、この法則は、すべての組織にあてはまるということです。
つまり、何度クラス替えをしたとしても、そのクラスの中にまた新たな2:6:2の集団が生まれるということです。
これを知って、少し気が楽になったのは・・・私だけでしょうか。
「そうか、どんなに頑張っても2:6:2が変わらないのなら、全員同じレベルに引き上げることなんて、そもそも無理なんだな」
と思ったのです。
でもこれ、決してgive upではありません。
それならそれで、
どの留学生も、その人なりに向上するような授業を目指せばいいのではないか?
頭を切り替えられるようになったのです。
真ん中6割➡【ど真ん中】を意識!
まず、平均的な6割の層ですが、私はこの中のさらにど真ん中を一番意識して授業をすることが多いです。
具体的に「この人」と決めて意識することが多いです。
今日のこの授業内容を、○○さんに理解してもらおう。定着させよう。
こういう意識で行います。
(もちろん、これは私の脳内での勝手なターゲットです。学生自身には、私が照準を合わせている学生を悟られないようにします。)
その人が理解してくれれば、だいたいその前後の人たちも理解できていることが多いからです。
よく「平均より少しだけ上の人を意識するといい」と言いますし、私もそうすることもあるのですが、結果その人より下位の人がごっそり置いていかれる・・・となりかねないと思います。
どうしても教師は「上へ」「上へ」を意識してしまうので、授業内容も上振れしがちです…(私だけかもしれませんが)。
ですからかなり注意深く器用な教師でないとこれは危険だと思ってます。
そんな理由で私は「ど真ん中」をターゲットにすることが多いです。
自分で授業に「ノッて」くると、つい授業が走り出しそうになります(これも私だけかもしれませんが…つめこみすぎたり、スピードアップしたり・・・)。
そういう時に
あれ? 待て待て、○○さんはついてきてるかな!?
ちょっと集中力が落ちそうになってないかな?? 脱落しちゃいそうかな???
と意識することで、私自身が冷静になることができます。
上位2割➡チャレンジングな課題を、もしくは教師役に!
上位2割は、自ら伸びることのできる学生です。
授業を聞いて理解し、理解できなければ積極的に質問し、自宅学習も怠りません。(たまに、ただ成績が良いだけで意欲の低い学生もいますが…)
ですが、上記のように「6割」に当たる学生に照準を合わせてずっと授業をしていると、この2割の層はやる気をなくしてしまうかもしれません。
この学生たちを満足させるためには、彼らにとってチャレンジングな課題を与えることだと思います。
難しい発問は彼らに当たるように工夫したり、問題を解かせる時間には早く終わった人のための特別問題を準備しておいて渡したり(実質、この2割層に向けた難しめの問題になります)、ときには他の8割に向けて教師役になって説明をしてもらったり。
中でも「教師役」になってもらうことは、非常におススメです。
自分が分かっていることでも、それを頭の中で整理し、他の人に日本語で説明することは、非常に難しいことです。
彼らにとってとてもいい勉強になると同時に、他の学生にとっても、同じクラスの留学生の日本語ですからきちんと理解しなければならないという意識が働くようです。
・・・私の実感では、日本人教師(つまり私です)の日本語の説明を聴くときよりも真剣に聴こうとするように思います。
学生自身に「教師役」になってもらう授業については、「反転授業」として行ったことがあります。こちらの記事『【反転授業】留学生の日本語クラスでやってみたら、評判上々だった。』に詳しくまとめています。よろしければご覧ください。
下位2割➡「お土産」を渡せればOK!
下位の2割は、とても難しいです。
一生懸命勉強しているのに成績が伸びない、という学生は少なく、どちらかというと
【日本語学習そのものに興味も必要性も見出していない、その結果、成績は下位のまま】
という人の方が多いのではないでしょうか。
もちろん、私も教師ですから努力はします。
授業中に寝たりスマホをいじり始めたり内職(勉強以外のこと。何やら書類を書き始めたり)をしたり…といった問題行動は注意をしますし、ひどければ呼び出して一対一で話し合ったり。
授業を楽しくするためにこの記事『【日本語授業】簡単にできるおススメ活動ネタ~意外と盛り上がります』にあるようないろんな活動を取り入れてみたり。
でもどう頑張って働きかけてもダメな場合、授業態度を改めさせることは諦めます。
その学生に関わっている時間は、他の学生に関われませんから。
その代わり、その学生には、「その日のうちに何か一つでも収穫を持って帰ってもらう」ということを目標にしました。(目標設定としては非常に低いレベルですが)
日本語の語彙一つでもいいんです。
せっかく学校に来たんですから、一個でもお土産を。(笑)
(具体的には、過去に担当したクラスにいたRさんのように。・・・Rさんについては以前記事にしました。こちら『やる気のない日本語学校留学生に、私がやってみたこと。』です。よろしければお読みください。)
でも、本人がそのお土産を持ち帰ることを拒否した場合は、仕方ありません。
それは本人の選択ですから。
こんな風に考えることで、この下位2割にイライラさせられることは格段に減りました。
※もし、一生懸命に頑張っているのに日本語が伸びない、という学生はまた別の話です。専任講師であればできるだけ補習等をして引き上げる努力をします。(ただし、本当に時間的な余裕のある時だけです。教師それぞれの考え方によるかもしれませんが、私は「その人だけ特別」ということはあまりやらないようにしています)
悩み過ぎるのは、やめましょう!
本当にレベル差のあるクラスの運営は難しいと思います。
これは日本語学校のみならず、小学校から高校まで(時には大学まで!?)、
どの学校の先生も悩んでいることだと思います。
たぶん唯一の正解は、ないです。
結局は一人ひとりがいろいろ試しながら「自分の正解」を考えていくしかないのでしょう…。
ただ、この問題にあまり悩み過ぎるのはやめましょう!
なにしろ「2:6:2」なのですから。
レベル差のない状態は作れないのだと割り切ることも、大事だと思います。
ちなみに!!!
もし万一、「いや、私のクラスに2:6:2の法則なんてないぞ!10割で勉強しないぞ!やる気がないぞ!成績が上がらないぞ!」という方は・・・
①ほっぽど、ひどい授業をしている。
②よっぽど、ひどい学生ばかり集まっている。
のどちらかではないでしょうか。
②の場合、それは日本語学校の学生募集に問題があるのだと思います。
メンタルを壊す前に、逃げましょう!
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