「反転授業」って知っていますか?
1,学習内容をまとめたビデオを、学習者が自宅で見るなどしてインプット
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2,クラス授業でアウトプット(学生同士で議論をしながらのアクティブラーニングにできる)
ざっくりまとめると、上のような流れの授業です。
従来の『クラス授業でインプット ➡ 学習したことを自宅で思い出しながら宿題をする(アウトプット)』とは流れがひっくり返っているので、≪反転≫です。
アメリカで始まったものですが、ここ数年、日本のさまざまな教育現場でも話題になっているようです。
これを、留学生の授業でやってみました。
日本語文法の授業
日本語教育の世界にも、最近は「タスク先行型」や「コミュカテイブアプローチ」といった学習者中心の教授法がだんだん浸透してきているようです。
とはいえ、日本語学校は、今も主に教員からの一方的な講義形式で授業を行っている所が多いと思います。
私自身は、大人が語学をしっかり学習しようとするなら、ある程度【文法知識の詰め込み】が必要だと思っています。
ですから昔ながらの方法(オーディオリンガル法とか)も、特に初級では非常に有効だと思っています。(最近ちょっと分が悪い気がしますが)
が!
中級以上、特に上級レベルともなると、話は別です。
学習者にはこれまでコツコツと積み重ねてきた【日本語】がたくさんあるわけです。
それらを武器として、彼ら自身に「先生」になってもらうこともできるのではないかと思いました。
そこで・・・冒頭に書いたように、ひっくりかえしてみました。
つまり、反転授業をやってみました。
以下、JLPTのN2からN1程度の文法クラスで行った反転授業の実践報告です。
反転授業の流れ
まず、流れを紹介します。
1,ビデオ作りと、配信と、学生への割り当て
まず、教師が、15分程度のビデオをつくります。
一本のビデオで取り扱う文法項目(機能語)は、三つ(①②③)。
ビデオの中には、①②③それぞれの項目について、
〇 ポイントの説明
〇 例文
を入れておきます。
それを、学生に配信します。
その際、クラスの学生を三つにグループ分けし、Aグループの人には①の部分、Bグループの人には②の部分、Cグループの人には③の部分、を重点的に見てくるように伝えます。
そして、『授業前に、自分が割り当てられた文法項目をしっかり勉強してきてください。ビデオを見るだけでなく、分からないことは調べて、自分でも例文を作ってきてください。それを後で、発表してもらいます』と指示を出しておきます。
2,授業でアクティブラーニング
グループ活動
授業の際、A・B・Cのグループごとに分かれて座らせます。
各グループの中で、それぞれ割り当てられている文法項目(Aグループは①、Bグループは②、Cグループは③の文法項目)について話し合いをさせ、学習してきたことを確認・共有し、知識をすり合わせ、それぞれが持ち寄った例文もブラッシュアップして良いものを準備してもらいます。
(「この活動でまとめた内容を、後でクラス全体に発表してもらう」と伝えてあります)
クラスで発表
グループごとに前に出て、グループ活動でまとめた内容を発表してもらいます。
その際、「先生」のような立場で、他の学生に「教える」ような形をとってもらいます。
いわゆる、ピアティーチングです。
各グループの発表後に質疑応答もさせます。
教師は見守る
教師は、明らかな大間違いが出てきた場合は止めに入りますし、あまりにも頼りない発表になっている時は介入したり軌道修正したりしますが、基本的には発表の様子を黙って見守ります。
発表が終わったら、教師がフィードバックします。
必要な補足等はここでします。
結果、こうなりました。
上記のような流れで「反転授業」をやってみたら、結果、こうなりました。
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大盛り上がり!
クラスの発表で、生まれて初めて「先生」になった学生たちは、張り切って「教える」役をやってくれました。
パフォーマンス好きな学生は、特にノリノリでやってくれました。
何よりよかったのは、学生役の人たちがとても積極的に授業に参加していたことです。
普段、授業は私(日本人の日本語教師)がやっています。
当然のことながら、ネイティブの「先生」が話すことは、彼らにとって圧倒的に「正しい」わけです。
100%信じ切っています。
しかも分かりやすい日本語で話しますから、内容も頭に入りやすいわけです。
ところが、同じクラスの留学生が「先生」だと思うと、彼らの「先生」への信頼度は下がります。(笑)
また、「先生」の日本語は普段の教師の日本語より聞き取りにくいです。
するとどいうことが起きるかというと・・・
学生役の方は一生懸命、しっかり聞いて、きちんと理解しようと必死になります。
また、果たして正しいことを教えてくれているのか?という、ちょっとした「疑心」もあります。(笑)
だからこそ、鋭い突っ込みや質問が学生たちから飛び出します。
・・・そんなこんなで、非常ににぎやかな授業になりました。
注意点
最後に、この「反転授業」の注意点をまとめます。
1,ビデオの長さを適切にする
授業前に視聴するビデオです。
あまり長いと、学生の負担になります。
ただし、あまりに短いと学生が調べなければならないことが増え、それも負担になります。
ビデオに盛り込む、文法項目のポイントの説明は、長すぎず短すぎず、適当な長さに調整する必要があります。
2, グループ作りは工夫する
教師がクラス内にグループを作るとき、できるだけ同国籍の人同士はばらした方が、そして普段仲の良い学生もあえて離した方が、より勉強になると思います。
3,この形式を取り入れすぎない
この反転授業は、たまにやるからいいのだと思います。
物珍しい形式だからこそ学生は楽しく取り組むのでしょう。
慣れてしまえば真剣度は下がると思います。
また、授業前にビデオを視聴するというのもしょっちゅうだと反発されるかもしれません。
4,取り入れる時期は慎重に選ぶ
全体的には盛り上がる授業だと思いますが、中には内心「なぜ同じクラスの留学生の授業を受けなければならないんだ」という思いを持つ人もいると思います。
JLPTの直前など、ピリピリしがちな時期に行うのは避けましょう。
比較的余裕のある時にスパイス的に取り入れるのがいいと思います。
5,教師のフィードバックは本気で
学生に先生役をしてもらって、それで「おしまい」では、絶対によくありません。
教師は学生の発表をしっかりチェックして、本気でフィードバックしましょう。
それが学生の満足度を上げると思います。
まとめ
いかがでしたか?
私はこれを専門学校でやってみました。
日本語学校と専門学校の専任講師の仕事を比較したこちらの記事で書いたように、私が勤めた専門学校の日本語授業は、日本語学校よりも自由度が高かったです。
だからこそちょっと変わったことや、面白い活動などにも積極的に取り組むことができました。
日本語学校であっても、少し余裕のある時期を選べば、できないことはないと思います。
もしよければ参考にしていただければ嬉しいです。
が、その場合は他の先生の了解を取っておくことをお忘れなく!
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