教師がどんなに新しい語彙を教えても、なかなか学生に定着しない…そんなこと、ありますよね。
特に文法や読解の授業の中で出てきた語彙だと、そういうことが本当によくあります。
これはある意味仕方のないことです。
語彙の授業で扱った言葉はともかく、それ以外の勉強で出てきた言葉まで自宅でわざわざ復習を熱心にする学生は、多くありませんから。
それならば、学校にいる間に暗記させてしまいましょう!
私も昔は、たとえば漢字の読み方を質問されて答えながらも、「これ、前にもこのクラスで何度か出てきてるはずなのにな~」なんて内心ため息をついたり、イライラしたりしていたものです。
が、そのイライラがマックスになったある日、思い付きであることを試してみたところ、定着率が確実に上がりました!
今回は「新しい語彙を、学生が学校にいる間に定着させる」その方法をシェアしたいと思います。
もし学生の語彙の定着率の悪さにお悩みの方は、さっそく明日から試してみてください。少しイライラが減るかもしれません。
・・・とはいえ、非常に単純な方法ですから、とっくにやってるよ!という方は、ご容赦を。
授業中に覚えさせてしまうなら、板書に限る!
ホワイトボードを使う。
今時は授業中、ホワイトボード(黒板)を使わない学校も増えました。
それでも、ほとんどの学校でまだ教室にボードがあると思います。
それを使います。
① ボードの右4分の1程度のところに縦線を引いておく。
② 覚えさせたい語彙が出てくる度に、そこに書き並べていく。
③ その時間が終わってもずっと消さないでおく。
これだけです。
書いたら消さずに確認用に使う。
日本語学校では一人の教師が4時間、同じクラスを同じ教室で担当することが多いと思います。
その間、ずっと消しません。
そして教師は授業中、何度もその語彙の意味を確認するようにします。
といってもそのためにわざわざ多くの時間を取るわけではありません。
授業中、何かをしていて一区切りついた所、次のことに移る前のようなタイミングでサラっと触れます。
「ところで○○さん、この言葉の意味は?」
「じゃあ△△さん、この漢字はなんて読むんだっけ?」
といった具合です。
学生は教室にいる間、ボードを見るたびに意識せずともそれらの語彙が目に入ります。
すると、「いつその意味や漢字の読み方を自分に当てられるか分からない」というちょっとした緊張感が生まれ、覚えようという意識に変わるようです。
クラスメートと同じタイミングで習った語彙ですから、それを当てられて答えられないと恥ずかしいという意識も働くのかもしれません。
これを何度か繰り返すと、授業が終わって帰る頃には、だいたいの学生の頭にこれらの語彙は定着しています。
覚えられないのは、反復が足りないから。
そもそも、どうして授業中に学んだ語彙を、学生は覚えていられないのでしょうか。
それは、反復(復習)が足りないからです。
短期記憶を長期記憶にするための「反復」
テスト前日の一夜漬けの勉強をしたことがあるでしょうか?
私はしょっちゅうやっていました。
が、一夜漬けで覚えた内容は、テストが終わると見事に消えていきました。
これは「短期記憶」だからです。
一方、日本語学習者に必要なのは、「長期記憶」です。
語彙をしっかり覚えて頭の中の引きだしに入れ、それを必要な時に自由に引き出すことのできるのが「長期記憶」です。
「短期記憶」を「長期記憶」に転換するキーが、「反復」なのです。
「反復」はできるだけ早くした方がいい
エビングハウスという心理学者が唱えた「忘却曲線」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
よほどの天才でない限り、人は、一度覚えたことでも時間がたつにつれて忘れていくものです。
それを忘れないようにするために、「反復」「復習」が非常に重要です。
そしてその復習は、早ければ早いほどいい(効率的にできる)のだそうです。
であれば、授業中に覚えたことは、授業中に復習しておいた方がいい!ということになります。
そして、その時間内だけでなく、2時間目、3時間目、4時間目…と繰り返すことで効果も上がるというわけです。
後日、ダメ押しの反復を!
上記のような方法で授業当日に何度も反復をするだけでなく、後日、ダメ押しの反復をするとますます効果が上がります。
同クラスで次に授業を担当する際、前回覚えさせた語彙を再び確認するのです。
口頭での簡単な確認でもいいですが、語彙はボードに書くとより効果的です。
私がボードに無言で語彙を書き始めると、最初はポカンとする学生もいますが、苦笑する学生もいます。
苦笑されればしめたものです!
学生の頭の中に、それらの語彙が残っているということですから。
最初はポカンとしていた学生も、他の学生に指摘されたりする中で、前回の授業を思い出してくれます。
・・・以上のような流れを何週か続けていくと、多くの学生が言葉を覚えてくれるようになるはずです。
おわりに
物事を記憶するとき、じっくり時間をかけて一回で覚えようとするのは得策ではなく、
上記のように頻度の方が重要らしいのです。
短時間であっても何度も何度もその言葉に触れることで、定着しやすくなるということです。
・・・アルバイトに遊びに恋に…留学生は日々多忙です。
自分で復習の時間があまり取れないなら、学校でその時間を強制的に作ってしまう方が、はるかに定着率は上がると思います。
なお、以前の記事「意欲ゼロの日本語学校留学生に、私がやってみたこと。」で紹介した「やる気のないRさん」のような人が居眠りから覚めた時などを見計らって反復すると、その語彙はRさんにとっての「その日の授業の貴重なお土産」になる可能性も秘めています(笑)
ところで、語彙を教えるときの指導にもコツや工夫できる点がありますが、それについては、また後日アップしたいと思います。(→アップしました。初級はこちら、中級上級はこちらです。)
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